西古見の大型クルーズ問題から現在の社会システムの限界を考える

こんにちは。いおんです。

奄美大島で今、大きく取り上げられている問題の一つに大型クルーズ問題がある。奄美大島の南西部に位置する瀬戸内町西古見に大型クルーズ船を誘致するというのだ。

瀬戸内町も鹿児島県もこの計画をバックアップしているようだが、自然破壊に繋がると反対する人も多い。

最初に断っておくが、このブログ記事では計画に賛成か反対かを述べるつもりはない。記事を見ている人には賛成の人も反対の人もいるので、「どっちの言い分も分かるよね。」と一番卑怯な立場に立つ。

代替案を示すわけでもないし、ここで述べることはクルーズ船誘致以上に夢物語であることは分かっているが、クルーズ船の問題から現代社会に感じる違和感を話してみる。

 

そもそも西古見のクルーズ計画って?

2018年1月11日、新聞にある記事が掲載された。

国土交通省が大型クルーズ船の寄港地開発に関して、奄美9カ所を候補地に挙げた調査結果を受け、瀬戸内町はこのほど、県に誘致実現に向けて支援を求める要望書を提出した。町側は結果公表後、独自に調査を進め、町内の候補地3カ所中、西古見集落の池堂地区を最適地として選定。世界自然遺産登録を見据え、「自然環境に最大限配慮し、他のモデルとなる計画を国、県、町で構築していきたい」としている。

西古見集落は奄美大島の南西部に位置し、人口が38人(H28/9月末)しかいない限界集落だ。空港から3時間くらいかかる僻地だが、奄美大島の中でも夕陽がとても綺麗に見える場所として知られている。

この場所にアジアを回るクルーズ船を誘致し、島の観光業促進に繋げようという計画だ。ちなみにこの計画は、鹿児島県知事も支援すると表明している。

奄美大島ではこのようなクルーズ船誘致は今回が初めての話ではない。2016年には龍郷町に同じようなクルーズ船誘致の話があったが、住民の反対で白紙になっている。

 

賛成と反対それぞれの意見について

今、奄美大島ではこの問題に反対する人の運動が広がっている。リンク先を見てもらえば分かるが、署名活動が集まって2日で3000人の署名が集まっている。

ざっくりと反対派の意見はこんな感じだ。

・住民に対しての十分な説明がないまま計画が進んでいる。

・環境破壊をするな!

・そもそも受け入れ態勢が整っていない。

・治安の悪化が懸念される。

・集落の生活が大きく変わってしまう。

反対派の意見は十分分かる。ぼくも初めてこの計画を聞いたときは「ほんとに大丈夫か?!」と思った。

先日、この計画に賛成する人に話を聞く機会があった。その人が言うには、

「自然が大事なのはもちろんのこと。しかし、今の瀬戸内町はどんどん人口も減って、このままでは衰退していく一方だ。声をあげて自分で何かができる人はいい。でも、島にはそうでない人もいっぱいいる。そういった人の生活を守るためにも、まずは経済の活性化を優先すべきだ。」

ぼくはきっと、声をあげて自分で何かできる人に分類されるので、島のそうでない人のことを完全に理解しているわけではないが、言いたいことは分かる。なによりその人は昔からの島の姿を知り、人口が減って島が衰退していくことを何よりも憂いている人だ。

この意見に対する反対派の意見はこうだろう。

・とはいえ、今回の計画は身の丈に合っていない!

・環境を壊さないとなぜ言えるの?

・そもそも住民に対する説明をきちんとしろ!

他にも賛成派・反対派それぞれの意見はあると思うが、概要の説明はこれで終わりにする。

 

将来に投資すべきは教育分野

 

賛成派も反対派も、将来のことを考えて意見している。反対派は将来の子のため孫のために豊かな自然を残そうとし、賛成派は子のため孫のために集落や町を守ろうとしている。

反対派の中には「金のことばかり考えてる!」と言う人もいるが、そういうわけではないと思う。

10年後、20年後に人口が減り、産業が廃れて集落や町がなくなっていくことを考えると今回のクルーズ船誘致のような大きい計画で町全体にテコ入れしようとする気持ちは分かる。

しかし、これは問題を先延ばしにしているにすぎないと思う。

将来のことを考えると、投資すべきは教育ではないだろうか。技術は目まぐるしく変わり、人の寿命よりも職業の寿命が短くなる時代だ。資格を持っていても、公務員でも、大企業に入っていてもこの先どうなるかは分からない。

でも、一人一人が自分で仕事を生み出すことができる力が身につけばいいのだ。

なにも全員に起業しろと言っているわけではない。仕事やお金について教育する必要があるということだ。

お金はなぜもらえるか。

それは仕事をしたからその対価としてもらえる。

では、仕事とはなにか。

仕事とは、会社に勤めて決められた時間椅子に座り、上司やお客さんにヘコヘコしてイヤなことを我慢することではない。

仕事とは、誰かの役に立ったり喜ばせたり楽しませたりして価値を生み出すことだ。そして、その価値に対してお金がもらえる

これから時代がどう変わるかは分からない。でもきっと変わらないのは、人は社会的な動物で一人では生きていけない。誰もが誰かの助けを必要としており、誰かの役に立つことはこの上ない喜びになるということだ。

要するに、価値を生み出すことができればいつでもどこでも生きていける。価値を生み出し、お金にかえるための教育が必要だと思う。

 

現在の社会のシステムの限界

なぜこんな開発をしなければいけないのか。

今の社会のシステムとして、人は働いてお金を稼がないと生きていけないからだ。生活するにはお金がかかり、そのお金を稼ぐためには仕事をしないといけない。つまり、人々が生活をするために無理やり仕事をつくり、雇用を生み出している。

西古見集落、瀬戸内町、奄美大島だけの問題ではない。今や日本全体で、このような雇用を増やすためだけの仕事が増えている。

以前、こんな話を聞いたことがある。

マッサージサービスの店は、マッサージでお客さんの身体を治すことはしない。治してしませばリピーターにならない。次もまた来てもらい、売り上げを上げるためにあえて治さないのだ。

社会は人々が暮らしやすくなるために規則やルール、仕組みができてきたはずなのに、その仕組みに翻弄されてはいないか。売り上げを上げるため、成長するために無理やり仕事を増やし、遅くまで仕事して疲弊する。いつのまにか生きるのは大変で、社会は厳しいところで、自然環境を壊してまで経済を回さないといけなくなっている。

もう、経済成長は今までのようには続かない。

地球の資源を壊しながら開発を進めても、いずれ枯渇してしまう。子や孫に残したいのは、こんな生き辛くて厳しい社会なのだろうか。もう経済システムそのものを見直さないといけないような気がする。

たとえばベーシックインカムを導入し、生活するために必要なお金の負担を下げる。生活コストの負担が下がれば、仕事のやり方も変わってくるし、西古見のような僻地でも生活がしやすくなり、あの夕陽が見れる環境を求めて移住してくる人も増えるだろう。

「脱成長」「自然資本経営」など、現在のシステムに限界を感じている人たちが新しい概念を考え出している。日本全体で新しいことを試すには、同意が得られずまず無理だろう。しかし、小さい集落であればコンセンサスが得やすく新しいことを試しやすい。島にはそういった意味で可能性があると感じる。

直近の危機的状況も理解できるが、今までの延長線上のようなやり方には限界があることを多くの人が感じている。誰もが思いは同じで、子や孫に豊かな島を残していきたい。残したい島の姿は一体どんな姿なのか。島には今、未来に向けた対話が必要な気がする。